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はやみみさんじとりものききがき
早耳三次捕物聞書
林 不忘
02 うし紅珊瑚
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,050 字 · 20 页
三
紺の亀甲の結城、茶博多の帯を甲斐の口に、渋く堅気にった三次、夜が明けるが早いか亀安の暖簾を潜った。
四十あまりの大番頭が端近の火鉢に凭れて店番しているのを見て、三次は、ははあ、これが昨日瓦屋へ談じ込んで行った白鼠だな、と思った。
上り框へ腰を下ろしながら見ると、上り際の縁板の上へ出して、畳から高さ一尺ほどの紫檀の台が置いてあって、玳瑁の櫛や翡翠象牙水晶瑪瑙をはじめ、金銀の細工物など、値の張った流行の品が、客の眼を惹くように並べてあった。台の上部は土間に立つと三尺ほどの高さで、被せ板が左右に一寸ほど食み出ているぐあいが、なんのことはない、経机の形だった。
大店だから三次もなにかと出入りすることがあったが、いちいち店の者の顔を視覚えているほどではなかったので、三次が、身分を明かして根掘り葉掘り訊き出すまでは、亀安のほうでも、昨日のことについては容易に口を開こうとはしなかった。
が、煎餅屋の女房が身投げして、それについて花川戸の早耳親分が出張って来たとあっては、何もかも割って話さざるを得ない。
昨日の午後、というよりも夕方だった。
煎餅屋の女房が買物に来て、根掛けを選んでいるうちに、ふと見ると、今まで台の上にあったうし紅珊瑚が一つ足らなくなっている。