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はやみみさんじとりものききがき
早耳三次捕物聞書
林 不忘
01 霙橋辻斬夜話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,640 字 · 21 页
正月早々朝っぱらから縁起でもないとは思ったが御用筋とあっては仕方がない。嫌な顔をする女房を一つ白睨んでおいて、三次は老爺について家を出た。泣出しそうな空の下に八百八町は今し眠りから覚めようとして、川向うの松平越前や細川能登の屋敷の杉が一本二本と算えられるほど近く見えていた。
東仲町が大川橋にかかろうとするその袂を突っ切ると材木町、それを小一町も行った右手茶屋町の裏側に、四軒長屋が二棟掘抜井戸を中にして面い合っている。それが甚右衛門店であった。
自身番の老爺が途中で若い者を二人ほど根引にして、一行急ぎ足に現場へ着いた時には界隈は寂然として人影もなかった。三次が井戸を覗いて見ると、藻の花が咲いたように派手な衣服と白い二の腕とが桶に載って暗い水面近く浮んでいた。それっというので若い者が釣瓶を手繰って苦もなく引揚げたが、井戸の縁まで上って来た女の屍骸を一眼見て、三次初め一同声も出ないほど愕いてしまった。
女は身投げしたのではない。誰かが斬殺してぶち込んだのである。しかもその切り口、よく俗に袈裟がけということを言うがまさにそれで、右の肩から左乳下へかけてばらりずんとただの一太刀に斬り下げて見事二つになった胴体は左傍腹の皮肌一枚でかろうじて継がっていた。