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あかるいかいひん

明るい海浜

宮本 百合子

「週刊朝日」1927(昭和2)年6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,608 字 · 16 页

青空文庫

やっと聞える位の声であった。

「びっくりしたじゃないの。ああ、本当に誰かと思った、いやなひと!」

椅子の上から座布団を下し、縁側に並べた。

「どんな? 工合」

「ゆうべは閉口しちゃった、御飯の時」

「ほーら! いってたの、うちでも岡本さんと。今ごろ陽ちゃんきっとまいっていてよって。少しいい気味だ、うちへ来ない罰よ」

「今晩から来てよ、あの婆さんなかなか要領がいい。いざとなったら何にもしてくれる気がないらしい」

ふき子は、

「岡本さん」

と、大きな声で呼んだ。

「はい」

「陽ちゃんがいらしたから紅茶入れて頂戴」

「はい」

「ああでしょ? だから私時々堪まらなくなっちゃうの、一日まるっきり口を利かないで御飯をたべることがよくあるのよ」

ふき子はお対手兼家政婦の岡本が引込んでいる裏座敷の方を悩ましそうに見ながら訴えた。

「弱いんじゃない?」

「さあ……女中と喧嘩して私帰らしていただきますなんていうの」

岡本が、蒼白い平らな顔に髪を引束ねた姿で紅茶を運んで来た。彼女は、今日特別陰気で、唇をも動かさず口の中で、

「いらっしゃいまし」

と挨拶した。

「岡本さんも一緒に召し上れよ」

「はあ、私あちらでいただきますから」