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めいあん
明暗
岡本 かの子
「むらさき」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,887 字 · 12 页
斜面の肌の青草の間に整列している赤松の幹に陽光が反射して、あたりはいや明るみに明るんでいる。その明るみの反映は二人の坐っている屋内にまで射して来た。
「蝉が啼き始めるかも知れないわ、今日あたりから」
智子は再び夫の方を振り向いて見た。夫はまだ何も云わなかった。「好いお天気」の聯想、「蝉」の想像も盲目の自分にはつかないのに妻はまたひとりで燥いでいるとでも思っているのではなかろうか。三木雄は真直ぐに首は立てているが丘の斜面にめんと向けた顔には青白い憂愁の色が掛っている。だが、何というきめの繊い――つまり内部から分泌する世俗的な慾望が現世のそれに適合するものと一度もその上で接触し合ったことのない浄らかな夫の顔の皮膚である。「坐るときには一番こうしているのが姿勢を保ち易いものよ」と智子が教えたとおりをそのまま、三木雄はやや荒い紬絣の単衣の前をきちんと揃えて坐った膝の上に両手を揃えてかしこまっている。律義に組み合せた手の片一方に細く光る結婚指輪も、智子自身が新婚旅行のホテルの一室で、旅鞄から取り出して三木雄の指につけてやったものである。
「そうそう、蝉のこと今、私が云いましたわね。