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めいあん

明暗

岡本 かの子

「むらさき」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,887 字 · 12 页

青空文庫

蝉の形、また、粘土で造らせて上げますわね」

ここまで云うと三木雄は輪廓の大きな黒眼鏡の上にまで延びた眉毛を一層広々延べ、まだいくらか残っている子供らしい声音を交ぜて、「ああ」と返事をした。けれど、それも以前程はっきりした歓喜の表現ではなくなっていた。蝉の形、蛇の形、蛙の形、猿の形、犬の形……これは盲目の夫の眼に見えぬ世界の生き物を拡大して粘土やセルロイドで造らせ、夫の触覚に試しては、妻智子の楽しみともするのであった。

今年の二月三木雄と結婚した智子はあれ程ヒロイックな覚悟と感動とを持って三木雄との生活にはいったのであるけれど、いよいよ夫となり妻となった生活には其処に盲の夫の暗黒の世界と妻の開明な世界との差が直ぐ生じて、それはむしろ智子の方へ余計積極的な苦労となったのである。夫は新しい妻の世界に手頼っていればまず好かった。妻はしかし、未知な夫の盲目の世界にまで探り入らねばならなかった。

三木雄は、その生理作用にも依るものか、性質もぐっと内向的で、その焦点に可成り鬱屈した熱情を潜めていた。そして智識慾も、探求心も相当激しいにも拘らず、今まで余り開拓されず、無教養のままに打ち捨てられていたのに智子は驚いた。