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やせがまんのせつ

明治十年丁丑公論・瘠我慢の説

福沢 諭吉

福沢諭吉『明治十年丁丑公論・瘠我慢の説』。同一底本的分册已合并为一书。收入:瘠我慢の説、旧藩情。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,663 字 · 48 页

青空文庫

そもそも海を観る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声に驚かず、感応の習慣によって然るものなり。人の心事とその喜憂栄辱との関係もまた斯のごとし。喜憂栄辱は常に心事に従て変化するものにして、その大に変ずるに至ては、昨日の栄として喜びしものも、今日は辱としてこれを憂ることあり。学校の教は人の心事を高尚遠大にして事物の比較をなし、事変の原因と結果とを求めしむるものなれば、一聞一見も人の心事を動かさざるはなし。

地理書を見れば、中津の外に日本あり、日本の外に西洋諸国あるを知るべし。なお進て、天文地質の論を聞けば、大空の茫々、日月星辰の運転に定則あるを知るべし。地皮の層々、幾千万年の天工に成りて、その物質の位置に順序の紊れざるを知るべし。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一のみ。徳川はただ日本一島の政権を執りし者のみ。日本の外には亜細亜諸国、西洋諸洲の歴史もほとんど無数にして、その間には古今英雄豪傑の事跡を見るべし。歴山王、ナポレオンの功業を察し、ニウトン、ワット、アダム・スミスの学識を想像すれば、海外に豊太閤なきに非ず、物徂徠も誠に東海の一小先生のみ。