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めいじてつがくかいのかいこ

明治哲学界の回顧

井上 哲次郎

01 序論

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,814 字 · 12 页

青空文庫

時勢も時勢で、ちょうど攘夷の非なることを覚って一日も早く西洋の長所を学ぼうという社会的要求の切なる際であったからして、福沢の苦心もむなしからず、その効果は意外に洪大となった。昔から「智恵アリトイエドモ勢イニ乗ズルニシカズ」ということがあるが、福沢はよく時の勢いに乗じてその志をなしとげたものといってよかろう。いずれその哲学に関係ある方面のことは追って別に述べることにいたして、中村正直という人のことについて一言しておきたい。この人は敬宇先生として知られているが、元来哲学だの論理学などということにはあまり注意もしないし、また喜ばなかった。殊に論理学などは最もきらいであった。ただしそれはよくもわかっていなかったようにも思う。が、この人はむしろ情の側の人で、道徳を主とし、宗教を崇ぶという性質の人であったからして、直接哲学に関係あるというよりはむしろそういう方面に大いに注意すべき方面があった。もっともその翻訳などは広く世の人に購読せられたので、社会教育の方面から見ても西洋思想輸入という立場から見ても、明治の文運に多大の貢献をした人で、明治の思想史の側においてけっして看過すべき人でないと思う。