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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

20 その十九 乞食男爵

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,755 字 · 62 页

青空文庫

せっかくの世捨人も、これでは世を捨てて暮せないから、額をあつめて、

「どうしたらいいでしょうね」

「仕方がない。アイツがああ云った上は、明早朝やってきて尻の穴まで改めるに相違ないから、垢のあるのが羞しいと思ったら一風呂あびてくるがよかろう」

「冗談ではすまないわよ」

世捨人たちはぜひなく明早朝を期していたが、夕方になっても、大工もトビも現れないし、周信も姿を見せない。翌日も、その翌日も、十日すぎ、一月すぎても尻の穴を改めにやってこない。人の骨までシャブル悪党にしては珍しいことだと思いつつ、日ごと怖しい訪れを待つ気持も次第に薄れて二月すぎた。

周信が現れないも道理、彼は失踪して行方不明であった。二ヶ月とは余りのことだから、父の男爵から捜査ねがいがでる。相手が男爵家だから疎略にもできず、一人の巡査が命令をうけて、彼と交渉のあった友人縁者片ッぱしから廻る役を仰せつかい、やがて世捨人夫婦のところへも訪問の順がまわってきた。なるほど行方不明なら現れないわけだ。しかし、あの怖しい鬼のような男がまさか人に殺される筈はあるまいから、人に顔を見せられないような悪事にとりかかり中かも知れない。