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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
08 その七 石の下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页
「人の話では、仏は勝碁の途中になくなられたとのこと、神田の甚八に四目置かせて勝碁とはさてさて怖しいことでござるが、棋譜は書きとめでございませぬか」
千代もこれには参った。亡父最後の勝局、この譜を残しておかなかったのは残念だが、あの唐突の死に際してそんな余裕のありうる筈のものでもない。
「私もそれを残念に思いますが、終盤ちかくチラと見ただけの盤面、しかと覚えておりませぬ」
「甚八と申せば江戸の素人天狗は三目でもめったに歯の立たぬ豪の者。まず二段はたっぷり打ちましょう。甚八に四目置かせて勝つなどとは名人と雖も考えられぬことでござる。棋譜の知られぬは残念千万でござるのう」
「うち見たところでは白によい碁ではございませぬ。黒は置き石を生かして白を圧迫し、黒に充分の碁ですが、隅の黒石に平凡な死に筋があるのを見落して、せっかくの好局を負けにしたのでした」
千代はこう答えて、目にアリアリと黒の見落した筋を思い浮べた。その時、千代の頭にひらめいたのは、その手筋であった。彼女は顔色の変るほど驚いた。彼女は腹に力を入れて、ウンとこらえた。しばしして、人に顔色をさとられぬうちと座を立って、わが部屋へ逃げこんだが、その踏む足もウワの空、宙を踏む夢心地である。