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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

08 その七 石の下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页

青空文庫

天鬼は笑いながら、懐中から、一枚の半紙をとりだした。それをひろげて、甚八の前へ押しやったのを見ると、アッと顔の色を変えたのは千代であった。

これぞ亡夫の先々代が系図に書き加えた謎の文字ではないか。仏像の秘密の胎内に隠された系図は、今では千代のほかにその所在を知る者はないはずだ。悪智恵が達者な天鬼とはいえ、いつのまに系図の所在を見破り、書き写したものであろうか。思えば悲しい千代である。彼女はすでにこの謎の文字を思いだすことも忘れていた。東太成人せば、と、その日をタノシミにすることができたのは、思えば短い年月であった。東太が生れもつかぬ低能児と分っては、亡夫が死に際に暗示した謎をとき、家伝の言葉を東太に伝える希望も根気もありやせぬ。いっそ東太を殺して自分も死んでしまいたい日夜の悲しい思い。謎の文字を思いだすさえ、身をきられる苦しみ。全てを忘れて東太と共にバカでありたい千代であった。

しかし、いつのまに天鬼がこれを見破ったのだろう。そんな様子はツイぞ見せたことがないだけに怖しい。二十年前、狂人のように亡夫の死に様をまねて指の方向をはかって以来、二度とそのような様子はなかった。