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むかしのかじ
昔の火事
宮本 百合子
「改造」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,494 字 · 21 页
夕方、辰太郎がかえると、その刻限には大抵夕顔の棚の下の床几にいる猛之介が、ふむ、きょうは何が出た、ときくのであった。竪穴から何が出たかという意味である。辰太郎は、切れもんの破片が出たよ、とか、モモの核が出たよとか手短かに答える。自分から、きょうは馬の歯が出た、と云ったこともある。猛之介がそれを訊く気持を辰太郎は知らない。この夏は殆んど毎日合金の敷地で暮しているのに、叱りつけられないわけも知らない。猛之介は、孫が我知らずそこで自分の代理の役に立っていること、何か変ったものが出たとき、自分が知らずにいるようなことは無いめぐり合わせになって来ているのに満足しているのであった。
工場の建築の方が愈々捗どって来て、この一週間ばかりのうちには最後にのこった二つの竪穴を調べ、発掘の仕事も一段落をつけなければならない時が迫った。井上は益々せっせと掘って、休むときは先の頃のように只寝ころがってはいず、仕上場の周囲にとりつけられた作業台の上に、これまで大きい木箱に入れておいた素焼の甕だの皿だの軽石だの、一つ一つこまかく何か書きこんだ紙を貼ったのを丁寧に並べる仕事にかかった。