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むかしのかじ

昔の火事

宮本 百合子

「改造」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,494 字 · 21 页

青空文庫

時世時世で、金があっちからころがりこんで来るってこともあるもんで、その道に居合わせた者は、運がいいというだけさ。――遠慮して素通りさせるがものはねえ。理髪屋の碌三は、鋏を鳴らしながら後つきの工合を眺めていたのだが、成程ねえ、と感服したように唸って、やがて、ハッハッハと苦っぽい笑いかたをした。理窟はそれぞれつくもんだ。

碌三も猛之介も、近頃新市街に編入されたばかりのこの土地では生えぬきで、若衆仲間からのつき合いであった。土地もちの連中があつまって、村から町になったとき、土地整理組合のようなものをつくった。新市街に編入されたというのも、近年こっち方面へ著しく工業が発展して来たからで、麦畑のあっちこっちに高い煙突が建った。大東京の都市計画で、この方面一帯が何年か後には一大工業中心地になるという話がある。土地整理組合というのもこの見とおしに立って、土地もちが会社やそのほか土地を買おうとするのに不当な懸引をされないよう、その反面には地主の間に利益の均等を守ろうというわけでつくられたのであった。

碌三も祖先代々の麦畑をもって、猛之介も祖父さま譲りの土地をもって、組合が出来るときから入っている。