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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
計算に間違はなかったけれども、項式はもう発展できないように横道に来ていた。
「奇体だなあ」
彼は思わず鉛筆を心もち紙の表面からもち上げて、自分に対して必死の抵抗を試みようとする項式をまじまじと眺めた。
「そこがどうなんです」
新井田氏が依然としてそこにいたのを渡瀬は知った。新井田氏の存在をおぼろげながら意識すると彼がその顧問(新井田氏自身は渡瀬を助手と呼んでいたが)となって、学資の大部分を得ているのを考え合わさないわけではなかったが、それが他人事のようにしか感じられなかった。渡瀬は「え」といってちょっと新井田氏を見上げただけで、またもや手をかえてその難問題にぶつかろうとした。大きな数がみごとに割り切れた時のような、あのすがすがしい気持を味うまでは、渡瀬の胸のこだわりはどうしても晴れようとはしなかった。彼は鞭つように罫紙を裏返した。それは見るまに数字で埋まってしまった。また一枚を裏返した。それもたちまち埋まっていこうとする。しかし計算はますます迷宮に入るばかりで、いつそこから抜けでられるのか予想はとてもつかなくなるばかりだった。
「変だなあ」
そう渡瀬の唇はおのずから言葉となった。