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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

……先方では支度も何もいらないと言うのだ。支度がいるようでは恥かしい話だが、今のところお父さんには何んとも工面がつかんからなあ」

「先様は何んという人です」

「先方はお前、今も浅田さんがいうとおりなかなか○持ちで、自分が貧乏から仕上げたのだから、嫁は学問がなくてもやはり苦労して育ったしとやかなのが欲しいと、まず当世に珍らしい……」

「何という人なんです」

「名か、名はその、梶といって、札幌では……」

はたして兄からいってきたとおりだった。おせいはあまりといえば父もあまりだと思った。

「そんなら私はどうしてもいやです。幾人も妾を持っているような高利貸のところになんぞ……お父さんもちっと考えてくださればいいに」

といううちに、彼女は胸が熱くなって涙ぐんでしまった。兄さんですら、小さい時、あれほど自分を可愛がってくれた兄さんですら、まるで自分の事しか考えてはいないし、お父さんはお父さんで、自分の娘だか、他人の娘だか区別のないような仕向け方をする、と思うと、おせいは誰にたよる的もないのを感じた。彼女はこの五年の間の苦しい女中奉公の生活――それは光明も何もない、長い苦しみの一つらなりだった――を思いめぐらした。