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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
軽い音……
おぬいさんのその眼のいうところを心に気づかせるのは俺にとっては何んでもないことだ。それは今までも俺にはかなりの誘惑だった。……
清逸はそこまで考えてくると眼の前には障子も蝿もなくなっていた。彼の空想の魔杖の一振りに、真白な百合のような大きな花がみるみる蕾の弱々しさから日輪のようにかがやかしく開いた。清逸は香りの高い蕊の中に顔を埋めてみた。蒸すような、焼くような、擽るような、悲しくさせるようなその香り、……その花から、まだ誰も嗅がなかった高い香り……清逸はしばらく自分をその空想に溺れさせていたが、心臓の鼓動の高まるのを感ずるやいなや、振り捨てるように空想の花からその眼を遠ざけた。
その時蝿は右の方に位置を移した。
清逸の心にある未練を残しつつその万花鏡のような花は跡形もなく消え失せた。
園ならばいい。あの純粋な園にならおぬいさんが与えられても俺には不服はない。あの二人が恋し合うのは見ていても美しいだろう。二人の心が両方から自然に開けていって、ついに驚きながら喜びながら互に抱き合うのはありそうなことであって、そしていいことだ。俺はとにかく誘惑を避けよう。