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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
人見さんが列車の窓から、
「おいここだ、ここだ」
といって西山さんを招いていた。
「危ないよ婆さん」
知らない学生が婆やを引きとめた。婆やは客車の昇降口のすぐそばまで来てまごついていたのだ。そこから人見さんが急いで降りてきた。
見ると人見さんの顔を出していた窓の所には西山さんの顔があった。がやがやいい罵る人ごみの中を駅員があっちでもこっちでも手を上げたり下げたりしたかと思うと、婆やは飛び上らんばかりにたまげさせられた。汽笛がすぐ側で鳴りはためいたのだ。婆やは肥った身体をもみまくられた。手の甲をはげしく擦る釘のようなものを感じた。「あ痛いまあ」といって片手で痛みを押えながらも、延び上って西山さんを見ようとした。と押しあいへしあいされながら婆やの体はすうっと横の方に動いていった。それはしかしそうではなかった。汽車が動きだしたのだった。窓という窓から突きだされたたくさんな首の中に、西山さんも平気な顔をして、近眼鏡を光らせながら白い歯を出して笑っていた。それがみるみる遠ざかって見えなくなってしまった。それだけのことだった。
三隅さんのお袋とおぬいさんとが親切に介抱してくれるので、婆やは倒れもせずに改札口を出たが、きゅうに張りつめていた気がゆるんで涙がこみあげてきそうになった。