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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

……だがこんなことは医者にさえいう必要はないことだよ。こんな嬉しいことはめいめいの心の中に大事にしまっておくべきことだからな」

苦しい呼吸の間から父はようやくこれだけのことをいって横になった。

この出来事については母もおぬいも父の言葉どおり誰にもいわないでいる。いわないでいるうちにおぬいにとっては、それがとても口には出せないほど尊いものになっていた。

おぬいは老境に来たのを思わせるような母の後姿を見つめながら、これを思いだすと、涙がまたもや眼頭から熱く流れだしてきた。啜泣きになろうとするのをじっと堪えた。……不断は柔和で打ち沈んだ父だったけれども何んという男らしい人だったろう。あの強い烈しい底力、それはもうこの家には、どの隅にも塵ほども残っていない。……淋しい、父が欲しい。父がもう一度欲しい。父のあの骨ばった手をもう一度自分の肩に感じてみたい。

力の不足、自分一人ではどうしようもない力の不足――倚りすがることのできるものに何もかも打ち任かして倚りすがりたい憧れ、――そしてどこにもそんなもののない喰い入るような物足らなさ。……気を鎮めて眠ろうとすればするほど、悲しみはあとからあとからと湧き返って、涙のために痛みながらも眠が冴えるばかりだった。