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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
二十四五とみえる男で支那人のような冷静で悧巧な顔つきをしていた。それが手ごろの風呂敷包を二枚の板の間に挾んで、棒を通して挾み箱のように肩にかついでいた。そして右の手には鼠色になった白木綿の小旗を持っているのだが、その小旗には「日本服を改良しましょう。すぐしましょう」と少しも気取らない、しかもかなり上品な書体で黒く書いてあった。
その小旗が風に靡いて拡がれば拡がったまま、風がなくなって垂れれば垂れたままで、少しの頓着もなく売声はもとより立てずに悠々と歩いていくのだった。
柿江も二十五だった。彼は何んとなくその物売に話しかけたくなった。そしてつかつかとその方に寄っていこうとした。その時彼は先夜西山と闘わした議論のことを思った。
「貴様のように自分にも訳の判らない高尚ぶったことをいいながら実行力の伴わないのを軽薄というんだ」と西山の言った言葉がどうも耳の底に残っていて離れないでいた。それとこれとは何んの関係もないようだが、柿江にはきゅうにその物売に話しかけるのに気がひけだした。それゆえ彼は物売をやり過ごして創成川を渡ってしまった。
次の瞬間に、柿江は今夜の夜学校の修身の時間にはあの物売の話をして聞かせようと考えていた。