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えいがのふきゅうりょくとは

映画の普及力とは

伊丹 万作

「アサヒグラフ」1940(昭和15)年5月29日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,670 字 · 4 页

青空文庫

我々日本人の大部分は家庭という文字の内容に静寂の観念を要求しているようだ。ラジオでその観念はかなり破壊せられたが、このうえさらに映画のような濃厚な娯楽が家庭の静かな時間を攪拌しはじめたら、そのときこそは我々が従来の家庭という言葉の概念を改めなければならぬときかもしれない。しかし特殊の場所において見せるものと家庭の内部において見せるものとでは選択や検閲の標準が違つてくることは当然であるから、その意味では日本の家庭は昔ながらの清浄を保つであろう。何よりも嬉しいことはその時代の病人たちの生活がずつと楽しくなることだ。どうも私は少し早く病気をしすぎたようだ。

そんな時代がきたら映画館は不要になりはしないかという心配は一応もつともだが、しかしその心配はいらない。第一に映画は館で見るのが一番おもしろいものだ。私はあるとき試写室でフェデの「女だけの都」をただ一人で孤影悄然として観賞した経験があるがおもしろくもおかしくもなかつた。第二に前述のごとく検閲の関係から、館へ行けば家庭で見られない映画が見られる。第三に画面の大きさや鮮明度など我々の観賞欲を満足せしめる諸条件において館と家庭では著しい径庭があることが予想される。