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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
私は、このどろぼうの風采に就いては、なんにも知らないということになっているのであるから、まさか、私がかれの訴人の一人である、などということは、絶対に有り得ないのである。それに私は、警察にはとどけないつもりであります、とはっきり、かれに明言している。かれは、私を、うらみに思うわけは無い。実は、私、このどろぼうが他日、捕えられ、牢へいれられ、二、三年のちに牢から出たとき、そのときのことを心配していたのである。あいつのために、おれは牢へいれられたと、うらみ骨髄に徹して、牢から出たとき、草の根をわけても、と私を捜しまわり、そうして私の陋屋を、焼き払い、私たち一家のみなごろしを企てるかもわからない。よくあることだ。私は、そのときのことを懸念し、僕は、なんにも知らないよ、と素知らぬふりで一本、釘を打って置いたのである。また、私は、あとあと警察のひとが、私を取調べるときのことをも考慮にいれて置いたのである。私は、もちろん、今夜のこのできごとを、警察に訴え出るつもりは無い。新聞に出たりなどして、親戚友人などに、心配、軽蔑されるのは、私の好むところでは無いのである。