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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
安いものさ。一晩、女を抱いたと思えば、あきらめもつくんだ。安いものさ。おれのことは、心配するな。さあ、ほかに欲しい人はないか、ないか。信じない奴あ、ばかだ! 君の亭主は、こんな工合に、調子づいて、おしまいには泣き声にさえなって、とうとう万年筆全部、一本のこらずくれちゃったんだ。刑事も、あきれたね。君の亭主は、そんな、へまな男なんだ。それゆえ、君は、その無力の亭主の手助けに、こんな夜かせぎに出なくちゃならなくなってしまった。どうだ、あたっているだろう。」あたるも、あたらぬも無い。私は、二十円とられたのが、なんとしても、いまいましく、むしゃくしゃして、口から出まかせ、さんざ威張りちらして、私の夢を、謂わば、私の小説の筋書を、勝手に申述べているだけなのである。まさしく、負けた犬、吠えるの類にちがいなかった。「僕は、まだまだ知っている。君は、なぜ僕の家を選んだか。僕は、知っている。僕の家は、まあ、若夫婦二人きりの、謂わば、まあ、新家庭だ。君は、そこのところに眼をつけた。若夫婦は、のんびりしていて、何かにつけて、しまりがない。そこに眼をつけた。と言えば上品だが、君、そうではなかろう? それだけではなかろう? どうだい? 君は、まだ、三十一だ。