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しゅんちゅう
春昼・春昼後刻
泉 鏡花
泉鏡花『春昼・春昼後刻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春昼、春昼後刻。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,079 字 · 102 页
散策子は、下衆儕と賭物して、鬼が出る宇治橋の夕暮を、唯一騎、東へ打たする思がした。
かく近づいた跫音は、件の紫の傘を小楯に、土手へかけて悠然と朧に投げた、艶にして凄い緋の袴に、小波寄する微な響きさえ与えなかったにもかかわらず、こなたは一ツ胴震いをして、立直って、我知らず肩を聳やかすと、杖をぐいと振って、九字を切りかけて、束々と通った。
路は、あわれ、鬼の脱いだその沓を跨がねばならぬほど狭いので、心から、一方は海の方へ、一方は橿原の山里へ、一方は来し方の巌殿になる、久能谷のこの出口は、あたかも、ものの撞木の形。前は一面の麦畠。
正面に、青麦に対した時、散策子の面はあたかも酔えるが如きものであった。
南無三宝声がかかった。それ、言わぬことではない。
「…………」
一散に遁げもならず、立停まった渠は、馬の尾に油を塗って置いて、鷲掴みの掌を辷り抜けなんだを口惜く思ったろう。
「私。」
と振返って、
「ですかい、」と言いつつ一目見たのは、頭禿に歯豁なるものではなく、日の光射す紫のかげを籠めた俤は、几帳に宿る月の影、雲の鬢、簪の星、丹花の唇、芙蓉の眦、柳の腰を草に縋って、鼓草の花に浮べる状、虚空にかかった装である。