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チュンタオ

春桃

宮本 百合子

「近代文学」2、3号、1946(昭和21)年2、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,868 字 · 22 页

青空文庫

と呼んで暑い日寒い日を精出した。そして帰れば夏冬の区別なく必ず体を拭いた。その湯を用意して待っているのは向高である。葱五六本、茶碗一杯の胡麻醤油を買って来て二人で食べる。「彼等のこの数年間の同居生活は、鴛鴦のようだと云っていけなければ、一対の小さな雀のようであったと云えよう。」

ところが或る日のことであった。午砲の鳴る頃、春桃は、いつもの通り屑籠を背負ってとある市場へ来かかった。突然入口で「春桃、春桃!」と呼びとめた者があった。春桃は、向高でさえ、年に何度としか呼ばないそういう呼び方で、誰が自分を呼ぶかと、おどろいた。振返って、春桃の愕きは、物も云えない動悸に高まった。破れた軍服を着て、云いようない軍帽を斜にかぶって、両脚のない乞食こそは、李茂なのであった。

春桃は人力車をやとって、李茂と屑籠とをのせた。そして、廂房のわが家へ帰った。李茂は、小ざっぱりとした廂房の内部と、春桃の生活につよい好奇心がある。

「お前とその劉という人とは一緒にこの部屋に住んでいるのかい?」

「そうですよ。わたしたちは二人ともこのの上で寝ます」春桃は少しもためらう風を見せなかった。