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はるふかく
春深く
久保田 万太郎
「都新聞」1924(大正13)年5月2、3、6、7日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,257 字 · 7 页
ところ狭いまでにいろいろ皿が並べ立てられた。が、毒々しい色の刺身だのこちこちに固まったフライだの、水のように冷めたい吸いものだの――そうしたものばかりのどこに箸をつけていいか分らなかった。――わたしの心もちは白け返った。
食後わたしは外に出た。――田舎田舎した好みの、並べた石にきどりをみせた植込に躑躅のあざやかに咲いたのをみながら門を出て、足の向くなりに、昨日俥でとおったみちを、逆に停車場のほうへあるいた。――空は昨日と同じように曇っていた。
わたしは郵便局をさがした。訊くまでもなくすぐに知れた。――電報をうつつもりでなかに入ると、わたしよりもさきに、その窓口に四十恰好の、かっぷくのいい、髭を蓄えた、どこかの宿の泊り客らしい拵えの紳士が立っていた。
「はて?」
わたしはわれにもなく注意した。みないふりにしげしげみまもった――昨日わかれて来た「東京」の匂がそれほどもうわたしにめずらしかった。
郵便局を出てから碓氷川のほうへあるいた。――曇ったままにしてうす日がさして来た。――だんだん水の音の高くなると一しょに家並が尽きて、しらじらと冷めたく展ける河原の光景が間もなくわたしのまえにあった。