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しゅんもう

春盲

豊島 与志雄

「人間」1951(昭和26)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页

青空文庫

終戦後、東京都内にも小鳥がたいへん多くなった。殊に山の手の住宅街にそうである。空襲による焼野原が至るところに拡がっていて、人家はまだ点在的にしか建っておらず、植えられた樹木も灌木の如く小さい。随って、焼け残りの街衢は、荒野の中に小さな聚落をなし、こんもりとした樹木の茂みに包まれて、町ではなく村である。そういう部落の木立をしたって、小鳥たちが集まっているのであろうか。

以前には見られなかったようないろいろな小鳥がいる。以前には聞かれなかったようなさまざまな鳴き声がする。おかしいのはチョットコイ鳥だ。姿は殆んど見せず、木の茂みの中をあちこち飛び移って、チョットコイ、チョットコイと鳴く。ちょっと来い、ちょっと来い。誰かが呼んでるのかと思って、覗いてみても、声はやみ、姿は見えず、やがてまた何処からともなく、ちょっと来い、ちょっと来い……。

山田は溜息をつく。煩いのだ。うら悲しいのだ。心嬉しいのだ。どこか擽ったいのだ。いろんな感情がごちゃごちゃ入り交って、そしてやはり、その声が待たれるのである。ちょっと来い、ちょっと来い。

実は、鳥の声ではない。美津子からの結び文だ。