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しゅんもう

春盲

豊島 与志雄

「人間」1951(昭和26)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页

青空文庫

」

「饒舌るのが煩いから……。そんなら、わたし黙ってますよ。」

黙りこくって酒を飲んだ。

山田はふいに顔を挙げて言った。

「新緑の旅、きっと行きますよ。」

「あら、そんな占いなんかできめたこと、わたしいやだわ。」

「占いは別のことです。実は、一週間ばかり旅行しなければなりません。新緑の旅は、その後でいいでしょう。」

「どこへいらっしゃるの。」

「水戸方面、それから真直に東へ……。」

「まっすぐ東へ行ったら、太平洋じゃありませんか。」

「そうです、海の中です。」

「でたらめを仰言ると、また……。」

彼女は抓るまねをしたが、山田は構わず占いを続けた。だが、でたらめを言ったのではなかった。汽車に乗って真直に行く……いや汽車が真直に走ってゆく。水戸から先、真直に東へ走ったら、太平洋にはいり、海底へ没するだろう。没してもなお、真直にどこまでも行くんだ。ちょっと来いも何もかも、もう間に合わないのだ。

そこに、遠い遠い疎隔があった。ただ、それに耐え得られるか。

山田はトランプを投げ出して、立ち上った。

「もう帰ります。」

美津子は酔いの廻った黒光りする眼で、じっと山田を眺めた。

「帰りますよ。