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はる
春
豊島 与志雄
「文芸春秋」1926(大正15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,464 字 · 21 页
そして、どうだろう、という工合に批評家の顔を見ました。
「ふうむ。」と批評家は暫くたって云いました。「一寸面白いようでもあるが、何だかよく分らないところもあるようだね。何と云ったらよいか、こう……余りに特殊な心理なので、そして心理だけなので、一般には向かないかも知れないね。」
「へえー、そうかね。」と小説家は答えました。「僕にはまた、そこが一番大切なところなんだがね。……余り特殊な心理だけで……なるほど……。」
「余り特殊なのと作者の一人よがりとは、一寸区別のつきかねることが多いものだから……。」
「そういうこともないではないが……。」
小説家は不平そうな顔をして、少し抗議をもち出しかけましたが、中途でふと気を変えたらしく、第二の「彼は窓際に坐っていた」を話しだしました。
和田弁太郎はよく一人で、寝室の窓際に坐っていた。
睡眠不足の夜が続くので、彼は学校も休みがちになっていた。そして、友人達が出かけていった後、がらんとした広い自習室に一人残って、ぼんやり考えるのであるが、それが変に頼り無いので、のこのこ寝室に上っていって、自分の寝室に寝そべってみたり、窓縁にもたれてみたりして、とりとめもない夢想のうちに坐り通すのである。