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きのう・きょう・あす

昨日・今日・明日

織田 作之助

「キング 三月号」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页

青空文庫

と、ミネ子は立ち停った。歌は「荒城の月」だった。

ミネ子のつきあいで聴いているうちに、赤井はふと、

「聴いたような声やな」

と、さすがに声の商売だけに、敏感だった。

「あッ、そうや。慰問で聴いた歌や」

そう判った途端、赤井は何思ったかミネ子の手をひっぱって、大阪の放送局のある馬場町の方へかけ出して行った。

丁度その頃、白崎もその放送を聴いていた。バラックにはもう、ラジオも電話もついていたのだ。父が声を掛けた。

「おい、第二放送に変えようか」

「いや、この方がいいですよ」

「歌はきらいだった筈だが……」

「あはは……」

他愛なく笑って、「荒城の月」を聴いていたが、急に、

「お父さん、今日の新聞は……?」

「お前の膝の上だ」

「あッ、そうか」

頭に手を当てて、膝の上を見て、ラジオ欄の「独唱と管弦楽、杉山節子、伴奏大阪放管」という所を見ると、

「杉山節子……? そうだ、たしかそんな名前だった。大阪放管? じゃ、大阪からの放送だ」

と、呟いていたが、やがてそわそわと起ち上って、電話を掛けに行った。

「……もしもし、放送局ですか。実は今放送しておられる杉山節子さんに急用なんですが、電話口へ呼んで下さいませんか」