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しょうわのじゅうよねんかん
昭和の十四年間
宮本 百合子
「日本文学入門」日本評論社、1940(昭和15)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,356 字 · 69 页
が、多くの読者を惹きつけた原因の第一は、作者のエロティシズムと地方的な色の濃い描写とで描き出された江波という若い娘の矛盾錯綜してゆくところを知らない行動と情感が、ある意味で、所謂人間性の無制約な肯定として現れている当時のヒューマニズムの傾向に相通じる一脈をもっていたからであったと思う。「麦死なず」にしろこの「若い人」にしろ、作品の世界は、その中の主人公たちが常識と一種の卑俗さによって敗北している通りに、作者の根強い常識によって人間性の把握はどたんばで通俗に落ちこんでいるのが特徴である。
尾崎士郎の「人生劇場」がこの作者としてのある達成を示しつつ作品にもられている人間情感の性質に於ては古い日本の人情の世界に止まっていることも思いあわされる。高見順と共に新人として登場した丹羽文雄の作品などもその世界に生きる人間群の現実的な生活のモティーヴだの動向だのという面からの観察は研ぎ込まれていず、人物の自然発生な方向と調子に従って、ひたすらその路一筋を辿りつめる肉体と精神の動きが跡づけられている。傍目もふらぬそれぞれの人間と事象との在りようを、作者がまた傍目もふらず跟いて行く、その熱中の後姿に、文学に於ける人間再生の熱意、ヒューメンなものが認められるという工合でもあった。