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しょうわのじゅうよねんかん

昭和の十四年間

宮本 百合子

「日本文学入門」日本評論社、1940(昭和15)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,356 字 · 69 页

青空文庫

十分の効果をもっていた。この二つの要素が作者火野によって常に意識されていることは、この作につづいて書かれた「土と兵隊」、「花と兵隊」等にも一貫して認められる。しかしながらこの二つの要素への意識はどちらかといえば素朴な両立の形で存在していて、その意識は文章の独特な人間的文学的ポーズを感じさせる。更に私たちの注意を惹かれることは、火野の文章のあらゆる場合、戦場の異常性というものが抑えられて描かれている点である。人間が、どのような強烈な刺戟の中にも馴らされて生きるものであるのは一つの現実であるけれども、馴らされるまでに内外から蒙る衝撃と思考の再編成の姿は、人間の生活的ドキュメントであろうけれど、火野の記録にこの歴史から照り返される人間精神の一契機は、語られていないのである。

日清・日露の時代とは比較にならず文化戦の意義は広汎に自覚されていて、作家の現地派遣も新しい時代の要求の方向を示すものである。桜井忠温は日露の時代が生んだ一種の戦場文筆家であるが、この人の文章にもやはり火野と同様の素朴な自然人の感情と兵士の立場とが二つのものとしてのまま現れている。そして同じく戦場の異常性というものはその表現の上に極めて抑えられている。