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ときのかんねんとエントロピーならびにプロバビリティ

時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ

寺田 寅彦

「理学会」1917(大正6)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,111 字 · 9 页

青空文庫

それらの議論はむつかしすぎて自分にはのみ込めないが、とにかくわれわれが力学や物理学で普通に用いる時の概念は空間の概念を拡張したものだという事は疑いもない事である。力学はつまり幾何学の拡張である。空間座標のほかに時を入れれば運動学が成立し、これに質量を入れて経験の結果を導入すれば力学ができる。これらの数学的の式における時間tが空間 x y z とほとんど同様に取り扱われうる事はミンコフスキーの四元空間 Welt の構成されるのを見てもわかる事である。

このように時を空間化して取り扱ったために得られる便利は多大なものであるが、しかし人間の直感する「時」の全部はtの符号に含まれていない。

ニュートンの考えたような、現象に無関係な「絶対的の時」はマッハによって批評されたのみならず、輓近相対性原理の研究と共にさらに多くの変更を余儀なくされた。この原理の発展以来「時」の観念はよほど進化して来たが、それはやはり幾何学の「時」の範囲内での進歩である。

吾人の直感する「時」の観念に随伴して来る重大な要素は「不可逆」ということである。この要点は時を空間化するために往々閑却されるものである。