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ときのかんねんとエントロピーならびにプロバビリティ
時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ
寺田 寅彦
「理学会」1917(大正6)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,111 字 · 9 页
空間の前後は観者の位置をかえれば逆になるが時間は一方にのみ向かって流れている。抽象的な数学から現実の自然界に移ってその現象を記載しようとする時には空間化された時だけでは用の弁じない場合が起こる。それはいわゆる不可逆現象の存在するため、熱力学第二方則の成立しているためである。
この方則の設立、エントロピーの概念の導入という事が物理学の発達史上でいかに重大なものであったかという事は種々の方面から論ずる事ができようが、ここで述べたいと思うのは、空間化された「時」だけでは取り扱う事のできぬ現象を記載するために最も便利な「時」の代用物を見いだした事である。
もしかりに宇宙間にただ一つ、摩擦のない振り子があって、これを不老不死の仙人が見ている、そして根気よく振動を数えているとすればどうであろう。この仙人にとっては「時」の観念に相当するものはただ一つの輪のようなものであって、振動を数える数は一でも二でも一万でもことごとく異語同義に過ぎまい。よしやそれほど簡単な場合でなくとも、有限な個体の間に有限な関係があるだけの宇宙ならば、万象はいつかは昔時の状態そのままに復帰して、少なくも吾人のいわゆる物理的世界が若返る事は可能である。