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とけいのないむら

時計のない村

小川 未明

「婦人公論」1921(大正10)年1月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,709 字 · 8 页

青空文庫

「やあ、これは珍しい。」といって、その時計の前に頭を集めてほめそやしました。

しかるに、不思議なことには、村に二つ時計がありましたが、どうしたことか、二つの時計は約三十分ばかり時間が違っていました。どちらが違っているのか、だれもそれを知ることができないのであります。

「この時計は狂っていない。標準時に合っているのだ。」と、一人の金持ちがいいますと、

「この時計こそ合っているのだ。上等の機械で、町の時計にちゃんと合わしてきたのだ。」と、他の金持ちがいいました。

二人の金持ちは、たがいに自分の時計を正しいといって譲りませんでした。ちょうど、二つの時計は厳かなおきてのように、村のものは、二つに分かれて、一方は、甲の金持ちの時計を正しいといいました。一方は、乙の金持ちの時計を正しいといいました。

いままで、平和であった村が、時計のために、二つに分かれてしまいました。時計は神さまのようになってしまったのです。

「今夜、六時から集まる。」と、いい合わしても、一方のものは、乙の金持ちの時計が六時になると会場に集まりましたが、一方のものは、甲の金持ちの時計が六時にならないので集まりませんでした。