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ばんか
晩夏
堀 辰雄
「婦人公論」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页
それからお上さんは又云った。あすの朝早く出征する方を向う岸へ渡す約束がしてあるのだが、それに間に合うように帰って貰わなければ本当に困ってしまう、とその困っている事情の相談相手にまで私達をしかねなかったので、私達は忽々にそこから引き上げた。
*
「しようがないから、ひとつこの岸を歩けるだけ歩いて往って見ようよ。Y・W・C・Aのところまで往けるかな?」
「そんなにお歩きになっても大丈夫?」
私達は、そんな事を云いながら、こんどは外人部落とは反対に、Y・W・C・Aの寮のある方へ湖岸づたいに歩き出した。
湖に沿うて上ったり下ったりしている径で、ときどき急に湖と並行したり、それから又林のなかへはいったりしていた。木の幹と幹の間から湖水の面が鈍く光っていた。いつか斑尾が私達から見えなくなり、妙高と黒姫とが二つ並んで真正面に見えて来た。
「感心に歩けるわね。」
「うん、きょうみたいに曇っていた方が歩くには好いよ。」
だんだん林が長くなって来た。そんな林の中には、この夏キャンプでもした者があると見え、ところどころに荒らされた跡があった。木の枝などが無残に折られたままになっていたりした。