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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
あれ程の毒を拭かずにおけば、今朝迄にはワニスが変色するか、剥げるかしていなければならぬ筈である。
私はちょっと失望した。
私はこうして昨夜岩形氏と洋装の女が対座していた卓子を見付け出すつもりであった。そうして、ボーイが持って来て岩形氏のすぐ横に置いたに違いないであろうウイスキー入りの珈琲に、洋装の女がどんな機会を狙って、どんな方法で毒薬を入れたか……それを又岩形氏が、どうして感付いて引っくり返したか……という事実がどうかして探り出せはしまいか……それを中心にして二人の態度を細かく探ったら事件の経緯がもっとハッキリなりはしまいかと期待して来たのであった。
云う迄もなく私は、岩形氏を、尋常一様の富豪とは夢にも思っていなかった。毒と覚って珈琲を引っくり返したところなぞを見ると案外腕の冴えた悪党で、この事件の真相というのも実は、稀代の大悪党と大毒婦の腕比べのあらわれかも知れないという疑いを十分に持っていたのであった。……だから……従ってその片対手の洋装の女が、どの程度の毒婦か。まだほかに余罪があるかないか。どこからどうして毒薬を手に入れたか……というような事実はこの際、焦げ付くほど探っておきたかった。