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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
あなた夫婦を助ける者は私だけです。その理由はお眼にかゝつて話します。色恋でも金のためでもありませぬ。日本のためです。信じて下さい。十四日午後五時に半蔵門停留場にお出でなさい。貴女はいつもの黒い服。私は黄色い鳥打帽子。運転服。かしを。
赤い線は一頁に二つか一つ半位の割合で附録詩篇の四十六篇の標題、
――女の音の調べにしたがひて……。
という処まで行って、おしまいになっている。
いつの間にか起き上って、眼を皿のようにしていた私は、聖書をピッタリと閉じて老眼鏡を外すと黒い表紙の上をポンと叩いた。そうして思わず、
「成る程。わからない筈だ」
と叫びながら音楽堂の上の青い空を仰いだ。
今まで私の眼の前を遮っていた疑問の黒幕がタッタ今切って落されたのだ。そうしてその奥に更に大きな、殆んど際涯もないと思われる巨大な、素晴らしい黒幕が現出したのだ。
元来米国と欧洲の瑞西は、世界各国の人種が出入りするために、各種の秘密結社の策源地のようになっている。その中でもJ・I・Cというのはどんな種類の秘密結社か知らないが、この文の模様で見ると米国に本部を置いているらしく、裏切者を片ッ端から死刑に処するのを見ても、その組織の厳重さと、仕事の大きさが想像される。