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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
けれども妾は、なおも夫が自殺の決心を持っているらしく思われてなりませぬので、恐ろしさと悲しさの遣る瀬ないままに、毎日のように夫のあとをつけまわしまして、度々面会致しては言葉を尽して諫め訓しましたのでございますが、夫は只がぶがぶと酒を飲みますばかりで相手になりませず、妾の恐れと悲しみが弥増るばかりでございました折柄、昨十二日の午前中、小包郵便で前記の暗号入りの聖書が到着致しました。のみならず、間もなくその聖書を送りました本人の樫尾自身が妾の出勤先の外務省に飛んで参りまして、団員の一人である朝鮮人留学生、朴友石の密告によりまして、私に対する死刑の宣告が、只今米国本部より樫尾の手許まで到着致した旨を告げ知らせました。そうして尚その上に――鮮人朴友石は一種のコカイン中毒から来た殺人淫楽者で、色々な巧妙な手段を以て不思議の殺人を行い、今日迄度々警察を悩まして来た白徒で、殊に異性の私を殺し得る機会を得ようと兼ねてから付け狙っていた恐るべき変態恋愛の半狂人である。なれども樫尾自身は日本政府の御命令で、あくまでも、J・I・Cに踏み止まるべき重大なる任務を持っているために、朴の行動に反対する事が出来ない。