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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
ただ人間と馬だけは本物のコサック産らしく、場内に乗り込んで来ると直ぐに左右に引き別れて槍の試合を初めた。試合といっても、それはほんの武技の型に過ぎなかったが、それでも随分猛烈なもので、マーチに入れ交る野蛮な掛け声と共に、木ッ葉のように馬を乗りまわし、槍を搦み合わして闘いながら落ちようとして落ちなかったり、馬の腹をぐるぐる這い廻ったりするところは、度々見物を唸らせた。
十分間ばかりで試合が済むと見物席に一しきり喝采が湧いた。烈しい口笛を鳴らす者もあった。これは一座の明星カルロ・ナイン嬢の出場を予期した動揺であったらしい。その十分に調子付いた見物の亢奮的喝采の裡に、コサック式の白い外套、白い帽子、白手袋、白長靴、銀拍車という扮装で、白馬に跨ったナイン嬢は、手綱を高やかに掻い繰りながら現われたが、私の居る特等席の正面七八間の処まで来て馬を止めると、見物一同に向って嫣然に一礼をした。見ればまだ十五六にしか見えない花恥かしい少女であるが、何もかも眩しい程の白ずくめの中に、黒い縮れた髪に蔽われた頬と、胸に挿した一輪の薔薇とが薄紅色をしているばかりである。雪の精というものがもし外国にあるならば、このような姿ではあるまいかと私は思った。