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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

、化粧を凝らしたこの女の容色を引っ立てて、妖艶を極めた風情を示している。あまりに俗悪な比喩ではあるが、最前のカルロ・ナイン嬢の容姿を雪の精に見立てるならば、この女は、その化粧の凝らし加減や、その妖艶を極めているところから見て、是非とも花の精と思わなければならぬであろう。それも普通の花の精ではない。たった一眼で人の魂を奪い、生命までも取ろうとする毒草の精に譬えねばならぬ……それ程にこの女は深刻な、艶麗な美しさをもっている。二年前に私の鼻を明かした志村ノブ子を、私は不幸にしてたった一眼チラリと見ただけで、印象に深く残していないが、これも絶世の美人だったそうで、東洋銀行に金を受取りに行った時は、やはりこの女と同様に紫縮緬の被布を着て、紫色のハンカチを持っていたそうである。カルロ・ナイン嬢も最前、紫のハンカチを振っていた。又嘘か本当か知らないが、伝え聞くところに依ると、世界第一の美人として歴史に名高い埃及女王のクレオパトラも紫色が好きだったそうである。紫という色は、ほかの凡ての色を打消して、自分の美を擅にするものだと何やらの本で見た事があるが、もしそうだとすれば絶世の美人と呼ばれる女の嗜好は自然と一致するものではあるまいか。