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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
と立札がしてあって、その垣の内外に山のように積んだ秣の間から、楽屋の一部と、馬の出入口が見える。折よく人は一人も附いていないで、ただ通りかかりの者が十四五人立ち止まって、ぼんやりと馬の顔を見ているだけであった。
傾いた日光が大天幕の左上から眩しく映して、馬の臭いや汚物の臭気が鼻を撲った。
私は猶予なく三尺ばかりの亜鉛壁をヒラリと飛び越すと、恰も係りの者であるかのように落ち着いた態度で、馬をいじり初めた。一匹毎に鼻面を叩いたり、口を開かせてみたり、眼のふちを撫でたりしてやると、馬は皆温柔しくして私が噛ませる黒砂糖包みの錠剤を一粒宛呑み込んだ。この錠剤の内容は前にも一度説明した通り、俗に馬酔木とかアセモとかいう灌木の葉から精製したもので、人間に服ませると朝鮮人参と同様の効果があるが、錠剤にして馬に与えるときっかり二十分位で気が荒くなって、狂人のようになって暴れ出す。その代り精製してあるのだから副作用や何かはちっとも起さずに十分か十五分位であっさりと鎮まってしまうので、これはワザワザ陸軍の廃馬を使って実験したものだから間違いはない。
こうして都合よく誰にも見付からずに……見付かったら騎兵大佐の名刺を出して胡麻化すつもりであった……三十一頭の馬全部に、手早く錠剤を与えてしまうと、折柄、場内に哄と大きな笑い声が起っ