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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
私の背後に居た女優髷の女はまだ席に帰って来ない。大方私を不良老年と見て取って帰ってしまったのかも知れぬ。つまらない事をしたものだ。
もう一度時計を出して見ると三時十三分になっている。厩から出てゆっくり歩きながらここまで来る間に三分かかっている訳だ。あとは僅に十七分間である。女の事なぞ考えている隙はない。
場内は一寸居ない間に著しく暗くなって夕暗のような色を漂わしている。これは太陽が雲に隠れたためで、見物は水を打ったように静かだ。演技場の真中には今、中位の象かと思われる巨大な白葦毛の挽馬が、手綱も鞍も何も着けずに出て来て、小さな斑のテリア種の犬と鼻を突き合わせて何かひそひそ話をしている体である。そこへ赤白だんだらのピエロ服を着て骸骨のように眼鼻を黒くした小男が、抜き足さし足近づいて来て、妙な腰付きをして耳に手を当てがいながら、馬と犬の内証話を聞こうとした。これを見付けた犬は急に憤ってワンワン吠えながら道化男に噛み付こうとする。道化男は危機一髪の間に悲鳴を揚げて逃げまわる。楽隊が囃し立てる。見物はただ訳もなく笑った。
馬と小犬は道化役者を楽屋口の柱の上に追い上げると又、広場の真中に来て内証話を初める。