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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
しかし私はそんな騒ぎを後にして一直線に楽屋の中を眼がけて突進した。そうして巡査と押し合う人間の袂の下をかいくぐって、躓きたおれんばかりに楽屋の奥へ転がり込むと、楽屋の連中は皆、外へ逃げ出すか、馬の処へ駈け付けるかしているために、どの室も森閑と静まり返っている。
荷物部屋らしい室の前に来ると、ここばかりは他の室と違って、壁が亜鉛張りになっていて、やはり亜鉛張りの頑丈な扉が付いている。その扉を開くと苦もなく開いたが、中に這入って扉を締めると真暗になる。懐中電燈を点してみると嬢次少年が云った通り、向うの隅に真鍮張りの大トランクがあって表に白い文字でGEORGE・CRAYと書いてあるが、その鍵の処には、白い小さい紙布が挟んであるようである。近付いてよく見ると、それは嬢次少年自身の名刺で、その裏面には鉛筆で羅馬綴りの走り書きにしてある。
「この中の黒い鞄は頂戴致しました。御心配かけました」
…………………………………………………………………私はどこをどう歩いて来たのか丸で記憶しない。いつこのカフェー・ユートピアの二階へ上り込んだのか……どうして今、眼の前に並んでいる四種の料理……「豆スープ」