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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
と「黒麺麭」と「ハムエッグス」と「珈琲」を誂えたのか……一つも頭の中に残っていなかった。
窓の外を覗くと、往来には夕暗の色が仄かに漂い初めている。向家の瓦屋根の上を行く茶色の雲に反映する光りを見ると、太陽は殆んど地平線下に沈みかけているようである。頭の上の右手には花電燈がほっかりと点いていて、周囲には大勢の客が笑いさざめいている。中には曲馬団の帰りらしい学生の一組も居て、頻りに高声で話をしている。
「……面白かったな」
「うん。あのキチガイみたいなハイカラ紳士と、ハドルスキーの活劇が素敵だった。もう五十銭出してもいい……明日も遣るんなら……」
「一円呉れりゃあ俺が遣ってやらあ……」
「遣るよ一円ぐらい……」
「ダメよ。見物がみんな呉れなくちゃア……」
「チエ……慾張ってやがら……」
「何だろうな。あの紳士は一体……」
「キチガイだよ毛唐の……英語で何だか呶鳴ってたじゃねえか」
「最初は日本語だったぜ。待てッ……とか何とか……」
「……ウン……しかし何だってあんなに呶鳴り出したんだろう。だし抜けに……」
「ジョージ・クレイの居所を知っていたんじゃねえかナ」
「……どうしてわかる……」