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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
電車が二つばかり轟々と音を立てて私の背後の線路を横切った。ユーカリの枯葉が一二枚、暗の空から舞い落ちて微かな音を立てた。
その音を聞くと、急に私は自分の臆病さに気付いて可笑しくなった。
二十何年間の探偵生活に鍛え上げられた自分の神経を思い出しつつ人通りの絶えたのを幸いに抜き足さし足窓の所に近付いた。ちょうど窓の右手の処にこんもりした椿の樹が立っていて、暗の中に赤い花を着けている。その蔭に身を寄せて、窓の隅に映っている丸い影法師……それは卓上電話の頭であった……の中央にあるドローン・ウォークの編み目から内部を覗いた。
すぐに室の中の様子がすっかり変っているのに気が付いた。つい五六時間前に、少年嬢次と話をした時まで、樅の板壁に松天井、古机に破れ椅子というみすぼらしい書斎の面影は跡型もなくなっている。
四方の壁は印度更紗模様を浮かしたチョコレート色の壁紙で貼り詰めてある。天井には雲母刷り極上の模様紙が一等船室のように輝いている。床には毒悪な花模様を織り出した支那産の絨毯が一面に敷き詰めてあるし、窓に近い壁際の大机と室の真中の丸卓子には深緑色のクロス。