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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

「……いいえ。叔父の家に間違いございませぬ」

「……ふむ。それでは……」

とストーン氏はもう一度ぐるりと室の中を見まわした。

「ジョージ・クレイはどこに居るのですか」

「今しがたお答え致しました」

「え……何と云いました」

「お忘れになりましたか。嬢次はお母様と一緒に天国に……」

「アッハッハッハッハッハッハッハッハッ……」

とストーン氏は女の言葉を半分聞かぬうちに、突然、取って付けたように高らかに笑い出した。しかもそれは今の女の言葉に依って、何事か或る重大な疑問が解けたために、今までの不安と、緊張から一時に解放された事を証拠立てるところの、どん底までも朗かな、痛快な、ヤンキー式の感覚を投げ出した笑いであった。椅子に反り返って、両脚を投げ出して、ハンカチで顔を拭いて自分の前に坐っている女と、窓の外に立っている私を茫然たらしむべく、室中をゆすり動かして笑う笑い声であった。

「アッハッハッハッハッ……天国…………天国……天国へ行きました……アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」

そう笑い続けているうちに気を取り直して、旧の通りの紳士に立ち帰ろうとして、眼の前の女の姿を見ると、又もたまらなさそうに笑いを押え付けるストーン氏であった。