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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
それは眼に見えぬ暴風に吹きまくられる木の葉のような魂であった。恐怖の海に飜弄される泡沫のような霊であった。自分がどこに居るか。何をしているか。そんな事は全く知らない空虚の生命であった。その生命がこの世に認め得たものは唯「女の死」という一事だけであった。これを確と見届けた。そうして机に凍り付いたようにぴったりと動かなくなった。
……十秒……二十秒……三十秒……。
……突然……泣くのか笑うのか判らぬ表情が、その顔に動き初めた。その真白く大きく開いた口の下顎が左右にがくがくと動き出した。その白く蠢く舌の尖から涎がたらたらと滴った。その左右の緋色の眼は代る代るに大きくなり、又小さくなると同時に、眉は毛虫のように上下にのたくった。頬の肉は耳とつながってぴくぴくと上下し、遂には顔中の筋肉が一つ一つ違った方向に動きはじめた。……それは宛然たる畜生の表情であった。
ゴンクール氏は辛うじて自分が死を免れた事を感ずると同時に、畜生の世界に蘇えり初めたのであった。それもこの世の畜生の世界ではない。その身体附き、その表情、その喘ぎ方は全く地獄に住む獣類のそれである。地獄の火を取り巻いている獣類の一匹が「死」