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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
顔は丸顔で……もしもし……顔は丸顔で髪は真黒く、鏝か何かで縮らした束髪に結って、大きな本真珠らしい金足のピンで止めてあったと云います。眉は濃く長く、眼は黒く大きく、口元は極く小さくて締まっていたそうです。額は明瞭な富士額で鼻と腮はハッキリわかりませんが……もしもし……ハッキリと判りませんが兎に角中肉中背の素晴らしい美人で、顔を真白く塗って、頬紅をさしていたそうで……非常に誘惑的で妖艶な眼の覚めるような……ちょっと君等……ちょっと笑わずにいてくれ給え……どうも電話が卓上電話なので……もしもし妖艶とも云うべきものだったそうです。しかし服装はあまり大したものではなく普通の上等程度だったそうで……被布は紫縮緬に何かちらちらと金糸の刺繍をしたもので、下は高貴織りか何からしく、派手な柄で、何でも俗悪な色っぽいものだったそうですが、まだ冬にもならぬのに黒狐の襟巻をして、時計入りの皮の手提げと、濃い空色に白縁を取った洋傘と紫色のハンカチを持っていたそうです」
「金はどうして渡したのか」
「それがです……それが怪訝しいのです。金を預けてから三日も経たぬ十日の朝に岩形氏は電話でもって支配人を呼び出して、近いうちに自分の預金全部を引き出すかも知れないから、そのつもりでいてくれと宣告したそうです。