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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

……どうもヒステリーの被告みたいに、神経性の熱を四十度も出しやがって譫言ばかり……」

「どんな譫言を……」

と私は急に真面目になって問うた。

「黒い洋服だ。黒い洋服だ。美人美人。素敵だ素敵だなぞと……そうして今眼をあけると直ぐに起き上って、側に居たボーイ頭に、もう正午過ぎですかと尋ねたりしておりましたが、馬鹿な奴で……貴下に睨まれたのが余程こたえたと見えまして……」

「ははは。意気地のない奴だ」

「何かお尋ねになりますか……」

「いや、もう宜しい。犯人はもう解っている」

「え」

と皆は一時に私の顔を見た。私はちょっと眼を閉じて頭の中を整理すると、すぐに又見開いて、皆の顔を見まわした。

「犯人はやはりその女です。その女……田中春というのは多分偽名でしょうが……その女は泥酔している紳士に麻酔剤か何か嗅がして、シャツの上膊部を切り破って、薬液を注射して殺した。そうして覚悟の自殺と見せるために、瓶や鋏に被害者自身の指紋をつけたばかりでなく、上衣の外套を着せて、泥靴まで穿かせて、帽子や注射器までもきちんと整理して出て行った」

「その女を犯人と認める理由は……」

という質問が極めて自然に熱海検事の口から出た。