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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

ことまでした」

「そのとおりだ、おめえはよく知ってる、よく調べが届いたもんだ」三之助が云った、「しかしおめえは知っちゃあいねえ、おめえにはなんにもわかりやしねえよ」

「なにがわからねえっていうんだ、なにがだ」

「おめえにゃあ縁のねえことさ」三之助は頭を壁へ凭せかけた、「暢気にそんな口書をとるより、此処からぬけだす算段をしたらどうだ、土台の穴も大きくなるばかりだし、もうじき水が二階へつきそうだぜ、親方」

「おれがなにを知らねえってんだ、云ってみろ、おれになにがわからねえってんだ」

三之助は黙っていた。眼をつむって、じっと暴風雨の音に聞きいるようすだった。凭れている壁から後頭へ、じかにいろいろな物音が伝わってくる。階下の土台のあたりの、ごぼごぼと鳴るあの音は、今ではもうべつの、もっと大きな響きになっていた。家の柱は絶えずぶるぶると震え、流れて来る物が当るたびに、家ぜんたいがみじめに揺れた。

「おれのおふくろは泥棒だと云われた」三之助が独り言のように云った、「いつも佃煮を売りにゆく顧客さきで、握り飯を五つ盗んだからだ、鉄砲洲の質屋が近火に遭って、手伝いに来た出入りの者たちに炊出しをした、酒肴、握り飯や煮〆がずらっと並んでた、誰でも取って喰べ放題、飲み放題だった、……おふくろはもちろん手伝いにいったわけじゃあねえ、佃煮を