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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

娘は極度に昂奮して、手許がきまらず、そうでなくとも丈夫な捕繩は、なかなか切れなかった。

「あたしお幸さんのことで嚇としていたの、あんたがお幸さんを伴れて逃げると思ったのよ」娘はおろおろと云った、「此処でお幸さんと逢って、それから二人で一緒に逃げる、そう思って、嚇となって教えちゃったの、堪忍して三ちゃん、あたしを堪忍して」

「いいんだ、それでいいんだよ、おしげさん」

「よかあない、あたしばかだった、ばかでめくらでつんぼだった、いま向うであんたの云うことを聞いて、自分のばかがすっかりわかったの、こんなに長いことつきあっていて、あたし本当のことはなんにも知らずにいた、まるでつんぼかめくらのように、なんにもわからずに泣いてばかりいたのよ」

繩が切れた。娘は繩をかなぐり捨てて、三之助にとびついた。

「堪忍して三ちゃん」娘は三之助の首へ両手で抱きついた、「あたし嬉しい、……あんたの本当の気持がわかって嬉しい、もうこのまま死んでも本望だわ、一緒に死なせて、三ちゃん」

「だめだ、いけねえ、おしげさん」

三之助は娘を押しのけた。娘の両手をふり放して立ちあがった。娘は悲鳴のように叫んだ、縋りつこうとしたが、三之助は倒れている男の側へいった。